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ビンラディン殺害と適正手続き

ビンラディン容疑者が殺害された、との報道。

しかし、容疑者は飽くまで容疑者であって、殺してはいけない。

えん罪の可能性がある、ということだけではない。

真実が葬り去られ、その事件の背景や経過が全く検証されないことで、同じ犯罪がまた繰り返される。

本当にビンラディンという人物が存在し、今日殺害されたのであれば、今日、歴史的過ちが繰り返されたことになる(なお、ビンラディンという人物自体、もともとアメリカが作った仮想敵であり、実在しない、という説も根強い)。

この情報を聞いて、数年前、ヨルダンに行ったときに、フセイン弁護団から弁護団に入るよう長時間説得されたことを思い出した。

世界各地から弁護士が集まり、大勢に説得され、断るのが大変だった。
弁護団長には、その数ヶ月前日本でも会っているので、なおさらであった。

断りはしたが、弁護団加入をしようかと、本気でぐらついたのが、次の言葉だ。

「たとえ極悪人であろうと適正手続きが保障される法廷で裁かれることが近代司法の根幹だろう。『悪い奴は殺せ』では近代司法の歴史は2世紀後退する。近代司法の後退に君は手を貸すのか。法律家としてそれで良いのか」

刑事訴訟法を学ぶ中で、「適正手続き」の重要性、「手続き的正義」の重要性を叩き込まれた(法曹は、少なくとも司法試験に受かるまではそうだ)。

法曹の端くれとして、「手続き的正義を放棄して良いのか」という訴えは、本当に胸に響き、本気で悩んだ。

もちろん、ヨルダンに行ったのは、イラク訴訟の情報収集が目的で、フセイン弁護団に入ることが目的ではなかったので、最後にはフセイン弁護団に入るのは断った。

「もう記者会見を設定してある」と言われ、困惑したが…。

なお、翌日のエジプト、サウジの新聞には「日本の弁護士がフセイン弁護団に入る」と大きく取り上げられ、日本にもその情報がすぐに伝わり、ヨルダンから「誤報だ」と訂正を依頼した、という後日談付きである。

フセイン弁護団員は、その後何人も、何者かに殺害され、弁護団長自身も、身の危険を感じて後日弁護団を辞任している。

フセインはろくに審理もされず、適正手続きなど全くない中、絞首刑となった。

そしてビンラディンだ。

今日近代司法は2世紀、いや、もっと後退した。

ビンラディンが存在しようがしまいが、本当に殺されたかどうかは別にして、殺された、という事実が既成事実となり、これで「正義が達成された」と宣伝されたことで、近代司法の柱である「手続き的正義」は葬り去られたのである。
by kahajime | 2011-05-02 23:05 | イラク