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保育園の「最低基準」は「最低基準」としての機能を果たしていない(3)

中日・東京新聞の連載の最後です。とっても大事な記事だと思います。

ゼロ歳児急増 変わる保育園<下> 企業参入 競争か支え合いか
2011年6月9日

 一九九〇年代から急激に進められてきた保育の規制緩和。国は二〇〇〇年に認可保育園経営に企業参入を認めたが、全国の認可園約二万三千のうち企業経営はわずか0・7%(〇九年四月現在)にとどまる。

 企業進出が進まない原因を、埼玉県川口市や横浜市などで約八十カ所の認可園を経営する最大手、JPホールディングスの山口洋社長は「自治体の参入規制」と言い切る。企業経営では保育の質が保証されない、とするのが、参入を制限する自治体側の主張だ。

 同社は今年、株式市場から十三億円を調達し、十九園を新たに開園した。山口社長は「認可園経営を始めた〇五年以降の実績が評価された」と受け止める。

 自治体の財政危機で公立園が減り、社会福祉法人による新規設置が進まない中、待機児童解消策として企業参入に望みを持つ自治体がある。

 一方、懐疑的な保育関係者も多い。「運営費が全額公費なのに、利益として株主に配当するのは問題」「保育はもともと利益の出るものではない。人件費などを安くして、保育の質を下げている」といった批判だ。

 こうした声に、山口社長は「社内研修を積極的に実施し、モチベーションの高い保育士を養成している」「株主配当がないと資金調達が難しく、保育園を増やして待機児童を減らすのは困難」と反論する。

 「少子化で、経営力のない保育園はいずれつぶれる。社会福祉法人も企業も同じ土台で競争し、保護者が選択できるようにすべきだ」。国が一三年度の導入を予定している子ども・子育てに関する新しい制度の検討委員を務める山口社長は「競争による保育市場の活性化」を繰り返し唱える。

      ◇

 四月一日時点の保育所の待機児童数が、全国最多とみられている名古屋市。

 JR名古屋駅に近い認可保育園、けやきの木保育園が運営の柱に据えるのが、「支え合い」だ。市立保育園の民営化で、社会福祉法人が〇七年度に運営を受託した。

 「ちょっと待ってね」。指先に小さな切り傷を作って、ばんそうこうを貼るよう、せがんだ男児が保育士からこう言われ、フェンスにかじり付いて泣きわめいた-。

 園内で日常的にある風景。「少し待てば、ばんそうこうを貼ってもらえるという信頼感を大人に持てず、人格を否定されたように感じたんですね」。わがままな子と見られがちな園児にも、平松知子園長は温かなまなざしを注ぐ。

 子どもの気持ちにどう寄り添うか、どの保育士も悩む。同園では、子どもの反応を詳しく日誌に書き留め、どんな言葉掛けをすべきか、職員同士で助言し合う。時間をかけて繰り返してこそ、相手を思いやる気持ちや、友達への共感といった「子どもの心のひだひだ」を開いていけると、平松園長は考えている。

 同園が目指すのは、園内の子どもの生き生きとした姿を親に伝え、信頼関係を通して親子を丸ごとサポートする体制づくり。そんな人間同士のふれあいの中で、保育士も育っていくという。

 「保育は地域全体でつくっていくもの」と、近隣保育園との交流にも熱心だ。子どもにとって良い給食やおやつは何か、栄養士たちが研修会で一緒に学ぶなど、地域の保育園が知識や経験を交換し、支え合う。

 行政が担ってきた保育サービスを民間に委ねようとする国の新しい制度は、戦後続いてきた保育制度の大きな転換点となる。

 共働きの増加による低年齢児急増という現状の中、子どもの成長を保障するのは競争なのか、支え合いなのか。いずれの場合も、待機児童解消と保育の質維持の両立という綱渡りになることは間違いない。 (市川真)
by kahajime | 2011-07-11 22:15 | 保育