TPPのISD条項の違憲性

■TPPを巡る誤解
 現在交渉参加が進められているTPP(環太平洋連携協定)は、GATT協定第24条に定められたFTA(自由貿易協定)の一種ですが、即時の「例外なき関税撤廃」を本質とする点、条約当事国の広汎な分野にわたる各種規制や制度を「非関税障壁」として「改廃」を求めるという点で、他の自由貿易協定とは次元の異なる、極めて異質の「協定」です。
 これまでTPP問題を農業の問題として取り上げられてきたこともあり、国民にTPPの問題が正しく伝わっているとは言い難い状況にあります。
 しかし、TPPで協議されている分野は、農作物以外の他のモノやサービス貿易の自由化、各種非関税障壁の廃止、投資、労働力移動の自由化に加え、政府調達や環境・安全規制の緩和、競争政策や中小企業政策も含めた全24分野にわたっており、農業は24分の1のテーマに過ぎません。

■TPP参加による危険性
 TPPに参加すれば、食品安全基準や建築基準、さらに医療の安全基準が「非関税障壁」として「問題視」されて大幅に規制緩和されることになり、国民の命と健康、生活の安全が守られなくなる恐れがあります。
 また、地方自治体が地域経済振興のために展開している中小企業振興施策や各種助成も「加盟国に開かれた政府調達」ルールに抵触すると指摘されて廃止を余儀なくされる危険性があります。
 さらに、経団連の米倉会長は、TPP参加を促す中で、「日本に忠誠を誓う外国からの移住者をどんどん奨励すべき」(2011年11月8日記者会見)と述べ、積極的な移民の受け入れを求めていることからすれば、TPPによって労働力移動の自由化が促進され、日本国内の雇用環境がさらに厳しさを増し、労働基準も切り下げられることが想定されます。
 さらに、TPPは国内法に優先するため、国民の生命、自由、財産を守るための法規制よりもTPPの規定が優先することとなります。
 TPPは、農林水産業だけにとどまらず、日本の経済のあらゆる分野に及ぶものであり、TPPが国内法に優先することから、TPPに日本が加盟すれば、国民一人ひとり生活のあり方を大きく変貌させる結果をもたらすことは必至です。

■ISD条項は司法主権の侵害であり憲法違反
 TPP交渉が極秘に進められているため、内容が不明確な部分がありますが、TPPの中には「非違反申立」やラチェット条項など問題ある条項が多く含まれていると考えられます。
 とりわけ見過ごすことが出来ないのがISD条項(投資家対国家の紛争解決条項)です。
 ISD条項とは、市場参入規制をしたり、国内企業を保護しているとみなした国や自治体に対し、外国投資家が国際投資仲裁機関へ訴える権利を事前に包括的に付与する条項です。
 ISD条項の特徴をまとめれば、次の点が上げられます。
  ①国家対国家、という国際法の概念から離れて、投資家(企業)に国家を提訴する権利を与えている点、
  ②国内で起こった紛争であるにもかかわらず、提訴した投資家が紛争解決を「国際投資紛争解決センター」などの国際仲裁機関を選択した場合、当該国際機関によって司法判断が下される点、
  ③国際機関に訴えられた政府等には、当該裁判を拒む権利が認められていない点、
  ④国際投資紛争センターが世界銀行参加の組織であり、公正中立性が保証されない点、
  ⑤ISDの適用範囲が極めて広汎であり、あらゆる分野が「非関税障壁」として投資家から訴えられるリスクを抱える点
などが、ISD条項の特徴です。
 つまり、ISD条項は、第一次裁判権を日本の司法ではなく外国投資家が選択する国際投資仲裁機関に付与することを認めるため、日本国内で生じた紛争であるにもかかわらず、日本国内での裁判を行う司法権限が奪われることになります。
 憲法に照らしてみた場合、司法権が我が国の裁判所に属するとした76条1項に反するものであり、我が国の司法主権の侵害に他なりません。
 政府が今行おうとしていることは、司法主権の売り渡しです。

■国家主権侵害
 さらに、EUにも、ISD条項同様の条項があるが、最近では、ドイツの脱原発政策に対して、スウェーデンの電力会社が「脱原発政策によって見込まれる損害」として、38億ドルの賠償を求めてISD提訴するなどの事例も起こっています。ISDにより国家の中核的な政策すら外国投資家による国際投資仲裁によって左右されかねない事態が生まれており、TPPにISD条項が導入されれば、国の代表者である国会議員によって構成された国会が国の唯一の立法機関としている憲法41条にも反する事態が生じかねません。
 これは、国家主権の侵害であると言わざるを得ません。
 このようなISD条項の問題の深刻さゆえ、オーストラリアはISD条項に強く反対しています。また、自民党もISD条項が主権を侵害するという認識を持っており、2012年の衆議院選挙の公約では「主権を侵害するISD条項には反対」と明示していました。
 ところが、現在自民党はISD条項について言及を避けています。
 すでにTPP交渉は最終盤に来ており、ISD条項が盛り込まれていると考えざるを得ません。

■法律家が国民の生命自由財産を守る術を失いかねない
 以上述べたように、日本がISD条項を定めるTPPに参加すれば、日本国民の生命や自由、財産を守る国内法を、外国投資家が「非関税障壁」として訴える事態が生じ、かつ、投資家が国際投資仲裁機関を選択した場合、その裁判は国内で行われることもありません。
 そうなれば、弁護士は、日本の法律をよりどころに国民の生命自由財産を守ろうとしても戦う術を失ってしまいかねません。
 韓国は米韓FTAを締結し、昨年発効しましたが、米韓FTAにもISD条項が含まれおり、167名の裁判官が司法主権侵害のおそれがあるとして、大法院に米韓FTAについて検討する専門のタスクフォースチームを設置することを求め、大法院に設置されました。

 日本でも韓国同様に、むしろ韓国以上に、緊急にTPPの問題について法律家による研究を進める必要があります。
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by kahajime | 2013-07-08 23:55 | TPP