10年以上前の話であるが、NTTリストラ訴訟弁護団の一員としてNTTの経営分析を担当し、NTTの担当者の尋問も担った。経営分析では経営学の学者に指導いただき、会計学の重要性を実感した。
 裁判では、「人件費の物件費化が進められている」との軸でNTTのリストラ政策批判を展開した(名古屋訴訟は、勝利的和解)。

 会計学を理解する過程で知ったのは、会計基準が我が国に及ぼしている影響の大きさである。

 そして今、改めて、会計基準の影響の大きさを痛感している。

 以下は、自分の認識の整理のためのものである。専門外であるので、不正確な部分はお許し戴きたい。

 我が国の会計では従来、収益費用アプローチを重視し、純利益を重視し、発生主義会計、原価主義会計を基本構造としてきた。

 これに対し、ロンドンを中心に発展してきた国際財務報告基準(IFRS)の特徴の1つとして、時価主義・公正価値会計がある。この「公正価値会計」に関しては、国際会計基準委員会(IASB)が2009年5月に公開草案「公正価値測定」を、2011年5月には、IFRS第13号「公正価値測定」を公表している。

 「公正価値会計」は、1980年代後半から、デリバティブ等の新しい金融派生商品の急速な開発・普及等を背景として、金融商品会計を中心に世界的な普及を見せており、我が国にも多大な影響を及ぼしている。

 我が国も、橋本政権下のいわゆる金融ビッグバン以降、金融資産に時価主義が導入され、その後徐々に適用範囲が拡大されてきた。

 九州大学大学院の岩崎勇氏が「国際会計研究学会臨時増刊号2010年度」の「IFRS導入と公正価値会計の浸透」99頁において、従来の日本の会計思考と時価主義との対比を示している。

 岩崎氏によれば、従来の日本の会計思考が、①産業資本主義的な思考に基づき、②収益費用中心観に立ち、③発生主義会計・原価主義会計を基本構造とし、④時価の適用範囲は、金融ビッグバン以降も基本的には金融商品に限定されているのに対し、IFRSの基本思考は、①金融資本主義的な思考に基づき、②資産負債中心観に立ち、③全面時価会計を基本構造としている、と整理されている。
 
 さらに岩崎氏によれば、「我が国が長期志向でゴーイング・コンサーンを前提とした製造業的な思考の下での会計観を従来から採用してきており、他方、IFRSは、ファイナンス理論的な観点から、企業それ自体をも1つの商品として捉え、M&A等により企業を売買することを視野に入れた考え方に影響を受けている。言い換えれば、IFRSは、短期志向で投資の清算価値を常に念頭に置く金融業的な思考の下での会計観を採用していると考えられる。」としている。

 IFRSの会計観によれば、投資家は企業自体の「商品」としての価値を重視していることから、「商品」としての企業の事業用資産等も、売却を前提とした出口価格評価を想定しており、時価としての「公正価値」を重視することとなる。
   
 このIFRSの会計観は、

1)投資家は企業それ自体の「商品」としての価値を重視することから、「企業価値とは現在持っている資産のストックが大事であり、資産の時価が重要である」と考える。
 
2)そこで、資産と負債を全面的に時価で評価し、その差額である純資産の大きさこそが、投資家が企業の価値を把握するときに大事だ、という考え方につながる。
 
3)時価会計については、我が国も現実に有価証券について時価会計の導入をしたことにより、有価証券の含み損益が開示されることになり、会社の株主、投資家にとっては、投資の意思決定に役立つ情報がより充実したと考える。したがって時価会計の導入は、現在の企業の「価値」を図る上で大きなメリットがあるとみる。

4)また、時価会計の導入が進むことで、企業はこれまで以上に収益性重視の方向に向かうことになり、投資家にとってはメリットとなる、と考える。

5)したがって、時価主義の全面的導入は、企業の価値を把握し、また企業により収益性を重視させる、という点で投資家にとってメリットとなる。

以上が、時価主義を重視する会計観の基本と言える。

しかし、私は、以下の数点から、時価主義が拡大していくことについて、強く危惧をしている。 

(1)「公正価値」の評価が可能かという問題

 まず、有価証券であれば、時価の評価は可能であるが、それ以外の事業資産など、時価で評価することが困難な場合が少なくない。
 特に、中古市場などもない場合、極めて主観的な「時価」を「公正価値」と言って「評価」する他ない。このような「時価」が果たして本当に「公正」な資産評価が可能であるのか、極めて疑問である。
 むしろ、主観的な評価ばかりに支配された財務諸表を公開することで、投資家の利益を逆に阻害するおそれも否定できない。

(2)中長期的視点の欠如と企業価値の捉え方の問題

 短期的な利益を上げる投資家の利益を重視しすぎることにより、企業が中長期的に利益を拡大していく、という安定的な経営が困難となる、という弊害がある。 
 そもそも、企業の価値も、その企業の資産のストックや負債の価値のみをもって、企業の価値が決まるわけではないはずである。上記岩崎氏も、企業価値とは、「将来どのくらいの成果を稼ぐか、という見込みによって決まる」(101頁)としており、我が国の産業資本主義的な会計観に、IFRSの企業価値の捉え方は馴染まない。

(3)企業の安定性を著しく欠く
 さらに、大畑伊知郎の「日本経済を壊す会計の呪縛」(新潮新書)によれば現実に金融商品に対する時価会計の導入により、会社が保有する有価証券の含み損益が開示されることになったため、有価証券の含み損により、自己資本が目減りするということが起こり、企業の安定性が脅かされるようになった(45頁)。その結果、株式の持ち合いの解消が進み、安定株主に変わって外国人投資家が拡大し、株主の立場に立った収益性重視の経営に転じた、とする。

 もし、資産負債がすべて時価評価となれば、企業活動自体を健全に行っていたとしても、企業活動と離れた資産価値の変動によって、会社の自己資本がマイナスとなり負債が資産を上回る、という状態になってしまい、一気に倒産の危機にさらされることとなり、企業が極めて不安定な存在となってしまう。

 かかる事態を回避するために、企業は今以上に内部留保を高め、非正規雇用の拡大などに拍車がかかりかねない。
 
(4)長期的に企業価値を低める
 
 さらに、時価会計の全面適用がなされれば、今以上に企業は目先の利益拡大が至上命題となり、西武ホールディングスのように、投資家から、不採算部門(西武の場合は、地域の資源でもある鉄道)の切り捨てを求められることが日常化するのではないか。
 そのことは結果として長期的には企業価値を低めることになりかねないのではないか。

 少なくとも、会計上の資産と負債を全面的に時価(公正価値)で評価し、その差額である純資産の大きさを投資家(株主)にとっての企業価値(株主価値)の指標にすべき、というような全面的な時価会計基準は、我が国に馴染むものではない。
 
 時価会計基準の適用範囲の拡大は、日本の堅実な「ものづくり産業」を衰退させ、非正規雇用の拡大にも拍車がかかることは必至である。

 時価会計基準の適用が拡大していけば、「下町ロケット」の佃製作所のように、長期的な展望を持ってものつくりにチャレンジをする中小企業は絶滅しかねない。

 会計基準の問題は弁護士にとって盲点であるが、企業法制や労働法制と極めて密接に連関し合っていることから、常に注視が必要である。

【参考文献】
 ・岩崎勇「IFRS導入と公正価値会計の浸透」国際会計研究学会臨時増刊号2010年度
 ・福井義高「公正価値会計の経済的帰結」金融研究2011.8
 ・大畑伊知郎「日本経済を壊す 会計の呪縛」(新潮新書) 
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9月5日、愛知県内の学生さんたちが中心になって「『安保法案』について国会議員に聞く・あいち若者の集い」が名古屋市内で開かれます。多数の議員が来て下さるそうです。どたなでもご参加いただけるとのことですのでご案内します。

■名称「安保法案について国会議員に聞く・あいち若者の集い」
■日時 平成27年9月5日(土曜日)午後2時開会。
■場所 名古屋市中区新栄町2-3 名古屋YWCA会館2階 BIG SPACE(市営地下鉄栄駅徒歩2分)
■参加費:500円(18歳未満は無料)
■連絡先 鳥山晴香(日本福祉大学3年) 

☆8月末時点で参加いただける議員のみなさん
・民主党:大塚耕平さん、山尾しおりさん
・共産党:本村伸子さん
・社民党:福島みずほさん
・維新の党:牧義夫さん(ご検討中)
・自民党:交渉中
・公明党:交渉中

■学生さんが議員に出された手紙の一部をアップさせていただきます。

拝啓
 突然のお手紙をお送りさせていただきましたご無礼をまずお許し下さい。
 安保法案は「これまでの安全保障政策を大きく変えるものだ」と言われています。
 そうであれば、この先の人生が長い私たち若者にとってこそ、とても重要な法案だと思っています。

 しかし、国会の議論を見ても、私たちの勉強不足なのもあるかもしれませんが、とても私たちに届く言葉で議論しているように思えません。安倍首相のテレビでのお話に至っては、集団的自衛権の問題を火事に例えるなどしていて、ますます分からなくなった、というのが正直なところです。

 私たちに届く言葉で語られず、私たちが理解できないまま、安保法案の審議が進んでいることに、とても強い危機感を抱いています。

 国会議員の先生方は、安保法案について賛成であろうと、反対であろうと、先生方ご自身が十分理解の上で、お立場を表明されていると思います。

 私たちのこれからの人生にとても重要な法案だからこそ、先生ご自身のお言葉で、そして、安保法案について、私たち若者に届く言葉で安保法案について語って戴きたい。私たち若者の疑問に正面から向き合って答えて戴きたい。そして、その場を、是非、私たちの地元で設けたい。そう思い、今回の企画を思い立ちました。

 私たちは、日頃、学校の授業やアルバイトで精一杯で、政治的な問題に十分知識があるわけではありません。
 しかし、そんな私たちでも、大事な法案を自分の問題として真剣に知りたいと思っています。
 
 是非、国会議員の先生方におかれては、私たちの企画にご出席戴き、安保法案についてのご見解を語って戴き、同時に私たちの質問にもお答え戴きたいと切望しています。
 
 9月5日午後2時から4時半までの間、全ての時間おいで戴く必要はございません。
 短時間でもおいで戴ければ幸いです。
 現時点では、各党から一人ずつ、おいで戴けるように各党にお願いをしております。
 パネルディスカッション形式で出来ればと思っておりましたが、ご多忙な先生方の都合もあると思いますので、先生方がおいで戴く時間を調整し、それぞれ15分程度語って戴き、10分程度質問をさせていただく、という形で進めて参りたいと考えています。

 ご多忙とは思いますが、どうぞよろしくお願い致します。
(中略)
 最後になりますが、連日暑い中で、国会でのお仕事本当にご苦労様です。お体をくれぐれもご自愛下さい。
  草 々
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# by kahajime | 2015-09-01 07:31 | 憲法
 本日、2015年8月25日、名古屋市内の愛知県弁護士会において、「愛知ゆかりの市民による平和アピール~安保法案に反対します~」の発表・記者会見が行われました。

 会見には、天野鎮雄さん他合計5名の方がご出席されました。また、名古屋出身の女優の竹下景子さんからも直筆サイン入りのコメントを戴きました。

 団体でもなく、サイト等は作っていないので、僭越ながら、事務局的に関わった私のこのブログでご案内させていただきます。

 大学などを単位とする声明は続いていますが、県のくくりのアピール等は出されていません。
 しかし、安保法案が参院で審議されており、来年参院選挙が控えています。参院選は県単位での選挙が基本となります。
 大学などの枠を越え、多くの市民の声を形にしていくことが大事な局面です。
 
 そこで、県単位で安保法案反対の声を上げていくことが大事だと考え、愛知県ゆかりの市民による平和アピールを発表することになりました。

 アピール文は下記のとおりです。賛同人のみなさんにご注目下さい。

愛知ゆかりの市民による平和アピール ~安保法案に反対します~

 
 戦後70年の暑い夏を迎えました。

 先の大戦では、名古屋は軍都として日本の戦争を支え、また、名古屋を中心にたびたび激しい空襲を受け、多くの市民が犠牲となりました。
 
 70年前の戦争を終えた後、「再び過ちを繰り返さない」、私たちはそう誓いました。
 私たちは戦後、様々な矛盾を抱えながらも、「海外で一発の銃も撃たない」ことを誇りに、平和国家としての道を歩んできました。
 
 ところが、安倍政権は、国民の多くの反対に耳を傾けることなく、集団的自衛権の行使を容認することを含む安保法案を、衆議院で強行採決し、この通常国会で成立させようとしています。
 
 集団的自衛権とは、「自国への攻撃がないにもかかわらず、他国の戦争に参戦すること」を本質としています。そして、実質的には、日本がアメリカの戦争に深く加担し、他国で戦争をする国へと大きく変わろうとしていると言わざるを得ません。
 
 日本は、先のイラク戦争においても、既にアメリカの求めに応じて、イラク戦争に自衛隊を派遣しました。

 これに対し、2008年4月17日、名古屋高等裁判所は、「航空自衛隊が武装兵員をバクダットへ空輸することは、他国による武力行使と一体化した行動であって、自らも武力の行使を行ったもの」であるとして、航空自衛隊の空輸活動は、憲法9条1項が禁止した武力行使にあたり、憲法違反であると判断しました。

 名古屋高裁が「憲法違反だ」と厳しく指摘した「輸送活動」を担ったのは、愛知県の小牧基地から送られたC130H輸送機です。これにより、私たちはイラク戦争の加害者の立場に立ったと言わざるを得ません。

 それでも、自衛隊は直接イラクの市民に銃口は向けませんでした。 
 しかし、「集団的自衛権行使」となれば、他国の市民に直接銃口を向けることになります。戦争の直接の加害者となり、被害者にもなるでしょう。
 そして、この愛知県が自衛隊を海外に送り出す、戦争の加害の拠点となります。

 私たちは、戦争の加害者にも被害者にもなりたくありません。
 安保法案が成立すれば、日本が他国から軍事的な攻撃にさらされていなくとも、政府が「日本の存立危機事態だ」と認定してしまえば、容易に海外で戦争が出来てしまいます。

 そしてひとたび戦争が始まれば、簡単に戦争を終えることはできません。
 他国からの「反撃」として、日本全土も、特に愛知県は攻撃に晒され、多くの市民、子どもたちも犠牲になるでしょう。
 そして、戦争は、命を奪うと同時に、人々から人間性をも奪います。
 戦争をする国の下で、私たちの自由な表現は弾圧され、人間としての尊厳も奪われていくでしょう。

 この夏、私たちの国は岐路に立っています。
 私たちは、人間の尊厳を踏みにじり、人を、若者を、子どもたちを、戦争の駒にする国にしたくありません。

 日本を「戦争をする国」へと変えさせないために、私たちは、一人の主権者として、また、愛知県にゆかりのあるものとして、この安保法案に強く反対します。

 2015年8月25日

 愛敬浩二(憲法学者・名古屋大学教授)
 天野鎮雄(俳優)
 池住義憲(元立教大学大学院教授)
 石坂啓(漫画家)
 内河惠一(弁護士)
 梅原猛(哲学者)
 澤田昭二(物理学者・名古屋大学名誉教授)
 竹下景子(女優)
 茶畑和也(イラストレーター)
 つボイノリオ(シンガーソングライター)
 平野啓一郎(小説家・芥川賞受賞)
 益川敏英(名古屋大学素粒子宇宙起源研究機構長)
 水田洋(名古屋大学名誉教授・日本学士院会員)
 水田珠枝(名古屋経済大学名誉教授)
 矢野きよ実(パーソナリティー・書家)
 山田昌(女優)
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# by kahajime | 2015-08-25 23:01 | 憲法
集団的自衛権行使容認に反対し、立憲主義の破壊に反対する、国民安保法制懇 の「お知らせ」からの転載です。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

7月13日午前、中央公聴会が開かれ、早ければ15日には安保法案を委員会採決するとのことです。

憲法違反であることが明らかとなる中で、必要な議論を封印し、採決を強行しようとしていることに、断固反対します。

国民安保法制懇として、憲法違反の安保法案の廃案を求め、13日午後6時半より、抗議の緊急記者会見を行います。

【日時】7月13日午後6時半(開場6時)~午後7時半を予定

【場所】日本プレスセンタービル9階・会見場

【出席者】大森政輔元内閣法制局長官・長谷部恭男早大教授・小林節慶大名誉教授・柳澤協二元内閣官房副長官補・伊勢崎賢治東京外大教授・伊藤真弁護士

※国会の参考人に出席し、安保法案を憲法違反と明言した長谷部、小林、柳澤、伊勢崎が出席。さらに、法制局長官OBの中でも一目を置かれており、横畠現内閣法制局長官の元上司・師匠にあたる、大森元内閣法制局長官(安保法案を憲法違反と明言)も出席します。

これ以上ない陣容です。

ぜひ、取材においで下さい。独立系も歓迎致します。
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# by kahajime | 2015-07-10 00:51 | 憲法
08年4月17日の名古屋高裁イラク派兵違憲判決の判決文を抜粋しました。ご活用下さい。

■イラク各地における多国籍軍の軍事行動 ~ファルージャ
 イラク中部のファルージャでは,平成16年3月,アメリカ軍雇用の民間人4人が武装勢力に惨殺されたことから,同年4月5日,武装勢力掃討の名の下に,アメリカ軍による攻撃が開始され,同年6月以降は,間断なく空爆が行われるようになった。
 同年11月8日からは,ファルージャにおいて,アメリカ軍兵士4000人以上が投入され,クラスター爆弾並びに国際的に使用が禁止されているナパーム弾,マスタードガス及び神経ガス等の化学兵器を使用して,大規模な掃討作戦が実施された。残虐兵器といわれる白リン弾が使用されたともいわれる。これにより,ファルージャ市民の多くは,市外へ避難することを余儀なくされ,生活の基盤となるインフラ設備・住宅は破壊され,多くの民間人が死傷し,イラク暫定政府の発表によれば,死亡者数は少なく見積もって2080人であった。

■首都バグダッド
 アメリカ軍を中心とする多国籍軍は,時にイラク軍等と連携しつつ掃討作戦を行い,特に平成19年に入ってから,バグダッド及びその周辺において,たびたび激しい空爆を行い,同年中にイラクで実施した空爆は,合計1447回に上り,これは前年の平成18年の約6倍の回数となるものであった。

■多数の被害者
 世界保健機構(WHO)は,平成18年11月9日,イラク戦争開始以来,イラク国内において戦闘等によって死亡したイラク人の数が15万1000人に上ること,最大では22万3000人に及ぶ可能性もあることを発表し,平成18年10月12日発行の英国の臨床医学誌ランセットは,横断的集落抽出調査の結果を基にして,イラク戦争開始後から平成18年6月までの間のイラクにおける死者が65万人を超える旨の考察を発表している。
 また,イラクの人口の約7分の1にあたる約400万人が家を追われ,シリアには150万人ないし200万人,ヨルダンには50万人ないし75万人が難民として流れ,イラク国内の避難民は200万人以上になるといわれている。

■航空自衛隊の空輸活動
 航空自衛隊のイラク派遣当初は,首都バグダッドは安全が確保されていないとの理由で,バグダッドへは物資人員の輸送は行われていなかったが,陸上自衛隊のサマワ撤退を機に,アメリカからの強い要請により,航空自衛隊がバグダッドへの空輸活動を行うことになり,平成18年7月31日,航空自衛隊のC-130H輸送機が,クウェートのアリ・アルサレム空港からバグダッド空港への輸送を開始した。以後,バグダッドへ2回,うち1回は更に北部のアルビルまで,タリルへは2回,それぞれ往復して輸送活動をするようになり,その後,週4回から5回,定期的にアリ・アルサレム空港からバグダッド空港への輸送活動を行っている。
 平成18年7月から平成19年3月までの輸送回数は150回,輸送物資の総量は46.5トンであり,そのうち国連関連の輸送支援として行ったのは,輸送回数が25回で,延べ706人の人員及び2.3トンの事務所維持関連用品等の物資を輸送しており(平成19年4月24日衆議院本会議における安倍首相の答弁),それ以外の大多数は,武装した多国籍軍(主にアメリカ軍)の兵員であると認められる。

■憲法9条1項違反
 (航空自衛隊は)多国籍軍の戦闘行為にとって必要不可欠な軍事上の後方支援を行っているものといえる。したがって,このような航空自衛隊の空輸活動のうち,少なくとも多国籍軍の武装兵員をバグダッドへ空輸するものについては,前期平成9年2月13日の大森内閣法制局長官の答弁に照らし,他国による武力行使と一体化した行動であって,自らも武力行使を行ったと評価を受けざるを得ない行動であるということができる。
よって,現在イラクにおいて行われている航空自衛隊の空輸活動は,政府と同じ憲法解釈に立ち,イラク特措法を合憲とした場合であっても,武力行使を禁止したイラク特措法2条2項,活動地域を非戦闘地域に限定した同条3項に違反し,かつ,憲法9条1項に違反する活動を含んでいることが認められる。

■平和的生存権について
 平和的生存権は,現代において憲法の保障する基本的人権が平和の基盤なしには存立し得ないことからして,全ての基本的人権の基礎にあって,その享有を可能ならしめる基底的権利である。
 例えば,憲法9条に違反する国の行為,すなわち戦争の遂行,武力の行使等や,戦争の準備行為等によって,個人の生命,自由が侵害されまたは侵害の危機にさらされ,あるいは,現実的な戦争等による被害や恐怖にさらされるような場合,また,憲法9条に違反する戦争の遂行等への加担・協力を強制されるような場合には,平和的生存権の主として自由権的な態様の表れとして,裁判所に対し当該違憲行為の差止請求や損害賠償請求等の方法により救済を求めることができる場合があると解することができ,その限りでは平和的生存権の具体的権利性がある。

■控訴人らの請求について
 関係各証拠によれば,控訴人らは,それぞれ重い人生や経験に裏打ちされた強い平和への信念や信条を有しているものであり,憲法9条違反を含む本件派遣によって強い精神的苦痛を被ったとして,本件損害賠償請求を提起しているものと認められ,そこに込められた切実な思いには,平和憲法下の日本国民として共感すべき部分が多く含まれているということができ,決して,間接民主制下における政治的敗者の個人的な憤慨,不快感又は挫折感等にすぎないなどと評価されるべきものではない。

 
 
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# by kahajime | 2015-06-24 00:16 | イラク
名古屋高裁で違憲判決を勝ち取ったイラク訴訟弁護団として、 6月11日、下記の声明を出し、記者会見を行いました。
                                             
憲法違反の「安保法案」の即時撤回・廃案を求める
名古屋高裁イラク派兵違憲判決・弁護団声明


 1.政府は、集団的自衛権の行使の実態を国民に隠している

 安倍政権が解釈によって行使を解禁する「集団的自衛権」とは、「自国への攻撃がなされていないのに他国に武力行使をする」、つまり「自国防衛と無関係の戦争に参戦する」ということに他ならない。その際、想定されるのはかつての「国対国」の戦争ではなく、非対称の戦争、いわゆる「テロとの戦い」である。自衛隊が「テロとの戦い」に参戦するというのはどういうことなのか、その実態を直視する必要がある。  

 2003年3月に米国主導で始められたイラク戦争も「テロとの戦い」であった。イラクに対し、日本政府は「人道復興支援」名目にて自衛隊をが派遣したが、2008年4月17日、名古屋高等裁判所が航空自衛隊の輸送活動について、「米軍の武力行使と一体化しており、憲法9条1項に違反する」との違憲判決を下した。
 
 名古屋高裁違憲判決は、「テロとの戦い」と称される現代の戦争の実態をとても端的にわかりやすく指摘している。同判決は、イラクでは「テロリスト掃討」名目の掃討作戦においてクラスター爆弾やナパーム弾などの大量殺戮兵器が使用されたこと、イラク戦争開始後のイラクにおける死者が65万人に及ぶとの統計もあることを認定した。「テロとの戦い」の実態が市民に対する大量虐殺である、という事実を端的に示している。同時に、同判決は、イラク戦争において多数の米兵も命を落としている実態も認定している。
 
 現在、国会では、安倍首相が提示する、およそフィクションとしか言いようがない事例を前提にした「議論」が続けられている。自衛隊がどのような戦争に参戦していくかについて、リアリティーのある議論がなされていない。

 集団的自衛権を認めることによって、自衛隊は市民に対する大量虐殺を担うことになる。これが、現代の戦争、いわゆる「テロとの戦い」の実態である。この実態を覆い隠しながら、国家の根幹に関わる、国民の命にも関わる問題を強行しようとしている安倍政権の姿勢は、民主主義国家としてあるまじき態度であるとして、厳しく批判せざるを得ない。
 
 2.安保法案は「他国の武力行使との一体化」は明らかであり憲法違反である

 安保法案では、自衛隊の活動地域について、地理的限定をなくした上で、さらに、自衛隊の活動地域について、武力行使一体化をさせないための枠組みであった「非戦闘地域」の概念を否定し、「現に戦闘行為を行っている現場」以外での活動を可能とする。 さらに、弾薬・燃料等の軍事物資を米軍及び他国軍隊に補給することも可能とする。

 しかし、名古屋高裁違憲判決は、イラクで活動を行った航空自衛隊の輸送活動について、憲法違反であると判断した。その理由は、イラク特措法に従えば自衛隊の活動地域は「非戦闘地域」に限られるところ、航空自衛隊の輸送先であるバグダッドは非戦闘地域とは認められないこと、輸送物が武装した米兵であったこと、から政府見解(大森4要件)に照らし、他国による武力行使と一体化した行動と言わざるを得ないとして、憲法9条1項違反と断じたのである。

 このような名古屋高裁違憲判決の理屈に従えば、安保法案が非戦闘地域の概念を否定し、「現に」戦闘をしていない「現場」以外、すなわち戦争の最前線においても活動することを否定しない時点において、他国の武力行使との一体化を想定しているものと評価せざるを得ない。 

 また、名古屋高裁違憲判決においては、「現代戦において輸送等の補給活動もまた戦闘行為の重要な要素であるといえること」を大前提として違憲判断が行われた。安保法案が想定する、米国に対する弾薬の輸送などの軍事物資補給は、武装した兵員輸送より一層明確な戦闘行為と評価される。この点においても、安保法案の想定は、他国の武力行使と一体化するものと判断せざるを得ない。

 以上のように、名古屋高裁違憲判決に照らし、安保法案は、他国の武力行使と一体化する内容を含むものであり、憲法9条1項に違反するものである。

 武力行使一体化の歯止めをなくしてしまえば、当然、自衛隊が戦闘行為に巻き込まれる危険は飛躍的に増大する。「テロとの戦い」の現場で、他国の国民を殺し、また殺される事態に直面することは必至である。ひとたび、戦闘行為に参加していると評価される事態に至れば、報復を受けることは避けられない。自衛隊が戦闘行為の当事者になるのは時間の問題となる。

 かかる深刻な事態について、安倍政権はまったく国民に伝えていない。「抑止力が高まって戦争がなくなる」などと喧伝しているが、戦争の実態を無視する「虚偽広告」であって、到底認められるものではない。 
 
 3.戦争は国民を騙すところから始まる

 イラク訴訟において、イラクにおける航空自衛隊の輸送活動の実績について、情報開示を求めたところ、当初、黒塗りの「開示文書」ばかりが提出されてきた。
 しかし、自衛隊のイラク撤退後、民主党政権への政権交代直後の2009年9月、防衛省は自衛隊のイラクでの空輸活動の実績を全て開示した。 この文書により、連日多数の米兵など多国籍軍兵員の輸送をしたこと、その結果、合計2万人以上の多国籍軍兵員を輸送した実績が明らかとなった。

 これに対して、「貨物」において、人道物資と思われるものとしては、2004年はじめに航空自衛隊が最初に輸送をした時の「医療器機」以外、一つもなかった。
 国民向けには、「自衛隊はイラクで人道復興支援をしている」と装いながら、人道支援はしていなかった。実際には武装した米軍を掃討作戦の最前線であるバグダッドまで輸送する、という米国の武力行使と一体化する軍事活動を行ってきたのである。
 自衛隊のイラク派兵において、自衛隊の活動内容を「人道支援」だと国民を騙しながら、実際には米軍の戦争を支える軍事活動を行っていた(第一次安倍内閣の時期も含む)のが事実である。現在、安倍政権は、「戦争をする国にはならない」「安保法案は憲法上合憲だ」などと喧伝しているがまったく信用できない。

 4.安保法案は即時撤回・廃案を

 自衛隊イラク派兵差し止め訴訟について、名古屋高裁での審理が始まった2006年夏は、航空自衛隊によるバグダッドへの輸送活動が開始された時期であると同時に、第一次安倍政権が発足した時期とも重なる。

 安倍政権は、国会での議論を軽視し、自身が正しいと考える政策を次々断行した。この安倍政権の姿勢に対し、当時、「国会が機能していない」「議会制民主主義が軽視されている」などと厳しく批判されていた。原告・弁護団は、法廷で、「国会が機能していないときだからこそ、憲法を守るためには裁判所が正しく判断する他ないではないか。司法が今、政府の過ちを正す時だ」などと裁判官に厳しく迫り続けた。

 その結果、言い渡された名古屋高裁違憲判決は、第一次安倍政権下、議会制民主主義が機能していない中で審理を行った結果、言い渡されたものである(※判決言い渡し時は福田政権であった)。言い換えれば、民主的な議論を行わず、法の支配を自らの考えでねじ曲げようとした安倍首相が、違憲判決の産みの親とも言い得る。

 現在の安倍政権下でも、同様に民主的な議論の軽視、及び、法の支配の軽視がされている。国会における、安倍首相はじめとする閣僚の答弁はごまかしの答弁ばかりであり、まともな審議がされているとは到底評価され得ない。加えて、対米公約を優先していることから、国会での審議を軽視していることは自明である。第一次安倍政権のとき以上に議会制民主主義が機能せず、立憲主義・法の支配が蔑ろにされていることは明らかである。

 私たちは、まさに、憲法9条に違反する国の行為を日々目撃している。安保法案が万が一にも成立した場合には、平和的生存権侵害に対する訴訟が多数申し立てられることになろう。その際、裁判所は先例である名古屋高裁違憲判決にしたがって憲法9条違反を判断することも十分あり得る。

 しかしながら、具体的な審理をまつまでもなく、名古屋高裁違憲判決の論理上、現在政府が提出している安保法案の違憲性は、以上のとおり明白である。

 私たち、イラク派兵差止訴訟弁護団は、憲法違反であることが明らかである安保法案の即時の撤回・廃案を政府に対して強く求める。
 
 
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# by kahajime | 2015-06-20 23:43 | イラク
 以下は、金融資産課税などを検討するにあたって、その前提として、二元的所得税の点について、自分なりに頭を整理として書かせていただいたものです。不正確な部分もあるかと思いますので、おつきあいいただく必要は全くありません。

(1)二元的所得税とは
  二元的所得税とは、個人の所得を賃金・給与等の「勤労所得」と、利子・配当・キャピタルゲイン・不動産所得等の「金融・資本所得」〔以下、資本所得)の2つに分けて、勤労所得に対してはこれまで通りの累進課税を課すが、金融・資本所得は合計して分離し、比例税率を課すという税率である(財務省財務総合政策研究所「フィナンシャルレビュー」平成23年第1号「グローバル経済下での租税政策」森信茂樹17頁)。

 資本所得の税率は、法人税率や勤労所得の最低税率と同水準に設定されている。
 また、資本所得の中では、損益通算や損失の繰り越しは可能だが、勤労所得と金融所得の間の損益通算は原則として出来ない。
   
 この税制の考案者であるCnossenは、二元的所得税の基本的特徴として、以下の7点の要素を上げている。
 ①全ての所得を資本所得と勤労所得に分ける。
 ②資本所得は比例的な法人税率によって課税され、勤労所得は累進税率によって課税される。勤労所得の最低税率は法人税率と同水準に設定する。
 ③資本所得と勤労所得は完全に分離して課税される。あるいはまず法人税率で課税され、その後追加的に推進的な所得税率で課税される。分離課税により様々な形態の資本所得に対してフラットな源泉課税を課すことが可能となる。
 ④法人段階と株主段階の法人所得に対する二重課税は完全インビュテーションにより回避できる。同等の効果を持つ代替的な方法としては、株主段階で配当所得を非課税にすることである。
 ⑤企業段階の留保利益に対する二重課税は、株主に対して、法人税のかかる留保利益の分だけ株の簿価の引き上げによる回避することが出来る。代替的な方法としては、譲渡益を非課税にすることである。
 ⑥法人税の税率で資本所得を企業段階、あるいは支払い段階で、支払う主体から源泉徴税する。
 ⑦個人企業、非公開企業の収益は、資本所得と勤労所得に分かれる。資本所得分は、企業の資本価値に予想収益を適用して計算し、残りが勤労所得となる。

 以上のように、Cnossenが考える純粋な二元的所得税には、「資本所得に対する一律の源泉課税が、企業段階で行われる」という条件が加えられている。

 二元的所得税の背景としては、国際的な資本移動の拡大を背景に、移動性の高い資本に対する課税を軽減せざるを得ないという事情があった。特に高税率の北欧諸国では、租税回避活動が活発になり、適切な資本所得税が困難となった。
 
 そこで、税財源の確保と移動性の高い資本に対する低率課税というジレンマを解決するために、所得全体を資本所得と勤労所得に分割し、それぞれに対して異なる税率を課す、という方法が採択されるようになった。

 Cnossenが提唱した純粋な二元的所得税は、何処の国でも行われていないが、比較的近いのはノルウェーであるといわれている。

 二元的所得税の導入により、基本的に全ての所得が一律に課税され,労働所得については付加的な累進所得税率が適用されるようになった。

 二元的所得税の税額は、T=τ〔R-δK-rB〕+τrB=τ(R-δK)であり、結果的にCBITと同じとなる。

(2)二元的所得税の長所及び短所
  二元的所得税のメリットであるが、CBIT同様、株式調達と負債調達に対する中立性が確保される。また、株式発行と内部留保に対する中立性が確保される。

 しかし、デメリットとして、投資に対する中立性は確保されない。
 また、所得分割制度が二元的所得税のアキレス腱であるといわれている。

 自営業や非公開オーナー企業の経営者の所得は、勤労所得と資本所得の境目が必ずしも明確ではない。そのため、出来るだけ税率の低い資本所得で報酬を受け取ろうとする。こうした経営者の行動を防ぐ手段として、二元的所得税では所得分割制度がとられる。

 所得分割制度では、資本所得の帰属計算が行われ、それを所得全体から除くことによって勤労所得が計算される。
 ノルウェーでは、自営業者や能動的オーナーと呼ばれる、株式か配当の3分の2以上を保有しまたは受け取っている経営者に対して、所得分割制度に従った課税がされてきた。
 しかし、所得分割法の下で、家族経営企業が、家族内で株式保有率を変えるなどして、経営者の数を増やして受動的オーナー化する等の方法がとられ、所得分割を回避する現象を招いてしまった。
 
 Sorensen(2005)によれば、所得分割法に従う法人の割合は、1992年から2003年にかけて55%から32%に低下した、とされる。

(3)二元的所得税の問題点克服のためにいかなる税制改革が必要か

 ⅰ)二元的所得税の上記のような問題点を克服するために、ノルウェーでは2006年から所得分割制度が廃止され、株主所得税(SIT)が導入された。SITは、個人段階における株式投資の超過収益に対する資本所得税である。2006年からのSITを含む二元的所得税は、法人段階における資本所得と勤労所得の適切な分割を目指すのではなく、個人段階において株式投資の超過収益に対して、法人税とSITを合わせて勤労所得並みの課税を行うものである。

 SIT導入に伴い、インビュテーション法とRISK法が廃止されたが、SITは株式投資の超過収益のみに課税するため、配当やキャピタルゲインに対する二重課税は回避できる。

 また、RRAという帰属収益控除が翌年にステップアップされることで、内部留保による課税繰り延べの問題も排除できる。

 SITを含む二元的所得税は、所得分割という手法を回避しつつ、インビュテーション法とRISK法の下で実現されていた二元的所得税の利点を確保し続けており、二元的所得税の弱点を克服する取り組みと捉えられていた。

 ⅱ)しかし、株式取得税の欠点として、以下の点が上げられる。
 まず、投資の促進につながらない、ということである。個人段階の調整は、運用コストが高く、この点でACEの方がベターではないかと指摘されている。

 また、RRAは居住者のみが対象であり、ACEが外国人や非課税投資家にも適用されることに比べて、税収減が大きいという問題がある。
 また、社会保障費増加に対応して勤労所得税率を引き上げると、資本所得税率も引き上げざるを得なくなり、二元的所得税の利点が失われてしまう。

 ⅲ)そこで、より抜本的な法人改革案がいくつか提唱されている。
 Mirrlees Review が示した改革案は、基本はACEの利点を重視しつつ、二元的所得税の利点を合わせようとするものであり、1つは所得課税案(二元的所得税案)である。

 これは、資本所得は、勤労所得に対する最高税率よりも低い税率で課税する。
 また、個人事業主は所得分割制度を利用する。

 さらに、キャピタルゲインの「ロックイン効果」は、Vickrey(1939)の方向により回避する。

 もう一つは、消費課税案(株主所得税案)である。RRAによって正常利益が非課税とされ、安全利子率を超える利子所得がある場合には課税される、というものである。

 このように、抜本的な改革案が複数指摘されており、基本的にACEの利点と二元的所得税の利点を活かしていく方向性が望ましいものと思われる。

 ⅳ)そのほか、二元的所得税に対しては、高所得者に偏る金融所得を分離して低率で課税することから、垂直的公平性の観点から問題が多いという批判が継続的に行われてきた(上記森信茂樹氏「フィナンシャル・レビュー」誌上「グローバル経済下での租税政策」19頁)。
 これに対して、二元的所得税を導入したスウェーデン、オランダ、ドイツの税制改革を全体としてみると、給付付き税額控除の導入、住宅手当や子育て支援等の社会保障支出の拡充が同時期に行われており、意図したかどうかはともかく、効率的な税制という観点からの二元的所得税の導入に伴う垂直的公平性への懸念に対して、社会保障支出の拡充と組み合わせることにより、つまり、税と社会保障の一体的改革により、全体としてバランスを取っていると考えられる。

 各国とも国境を越え、ヒト・モノ・カネが自由に行き来するグローバル時代の租税政策として、効率と公平のトレードオフに悩みつつ、北欧諸国等では、二元的所得税の導入と社会保障支出の拡充を一体とした政策運営を行っている、と森信氏は評している。 

 ⅴ)我が国の税制は、とかく消費税のみが議論になりがちである。先の「社会保障と税の一体改革」も名ばかりで、社会保障と税との一体改革となっていない。
 北欧等で進む二元的所得税などと、それに伴う社会保障全体の一体改革の教訓を学びながら、我が国でもACEと二元的所得税を基本にしつつ、本来的な意味での税と社会保障の一体改革も含めて、抜本的な税制改革を進めていくことが切望されるところである。
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