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保育園の「最低基準」は「最低基準」としての機能を果たしていない(2)

中日新聞・東京新聞の連載の2回目です。驚くべき事実です。

ゼロ歳児急増 変わる保育園<中> 施設の1人当たり面積 解釈異なり地域で格差

2011年6月2日

 愛知県碧南市の認可保育園で昨年十月、おやつのカステラを食べていた栗並寛也ちゃん=当時(1つ)=が窒息死した。事故の背景の一つとみられるのは、ゼロ歳児の急増などに伴い、施設のスペースに対し、園児数が過密だったのではないかという点だ。

 児童福祉法では、園児受け入れに必要な保育園の基準として、園児一人当たりの面積=表、年齢別保育士数などを定めている。厚生労働省保育課によると「動きだした二歳未満の乳幼児には一人三・三平方メートルを確保するのが原則」だ。

 これに従えば、事故が起きた保育園で、ゼロ歳児と一歳児用の部屋として届けられていた六十一平方メートルで受け入れ可能な限度は、十八人まで(一人三・三平方メートルで計算)。二十六人が利用していた同園は、基準を超える園児数を受け入れていた可能性が高い。

 なぜ基準が守られなかったのか-。保育の実施機関である市や、監査権限を持つ愛知県が基準について、原則とは異なる解釈で運用していたためだ。

 二歳までの子どもは、寝ている状態から、ずりばい、ハイハイ、つかまり立ち、よちよち歩き、走る状態と状況が刻々と変わる。それなのに県も市も、一人三・三平方メートルの基準を使わず、ゼロ歳児、一歳児の全てに、必要な面積が最低限で済む「寝ている状態の子」の基準一人一・六五平方メートルが確保されていれば問題ないとしていた。市こども課は「本年度からは基準を下回らないよう、園児の受け入れ人数を調整したい」と話す。

 問題の根っこにあるのは、基準の文言の曖昧さに基づく自治体ごとの解釈の違いと格差だ。

 子どもの住環境に詳しい日本女子大の定行まり子教授が、基準の運用状況を全国で調べたところ、ゼロ歳児の一人当たりの面積を、一・六五平方メートルと三・三平方メートルを足し、上乗せ分と合わせて五平方メートルとするさいたま市のような例もあれば、愛知県のように最低の一・六五平方メートルとしている自治体も少数ながらあった。

     ◇

 低年齢児専門の認可保育所として、四十年以上の歴史がある東京都杉並区高円寺北の杉並さゆり保育園。ゼロ歳児一人当たりの面積は、都の基準に区独自の上乗せ分を加えた五平方メートル以上の確保が必要だ。定員いっぱいの十人のゼロ歳児が在籍する現在は、一人当たりの面積を基準ぎりぎりまで減らさなければならない。ベビーベッドを置くスペースが取れず、寝るときは柵で仕切って子ども用布団を敷いている。

 山吹京子園長は「寝ている子のすぐ隣で遊ぶ子がいたりして、五平方メートルでも、なんて狭いのかと思う。もっとスペースがあれば、睡眠が保障できると思うんですが」と困り顔だ。

 四月に成立した地域主権改革関連三法では、待機児童の多い自治体で、面積基準緩和が事実上可能になった。動きを先取りする東京都では都児童福祉審議会専門部会で、既に基準緩和の方向を打ち出している。

 基準が緩和されれば、私立保育園といえども、待機児童受け入れ要請は強まる。「これ以上受け入れが増えれば、子どもの育ちは確実に悪くなる」と、山吹園長は危ぶむ。

 二〇〇八年度の厚労省委託研究事業で、保育環境を調べた研究者や保育関係者など十一人の調査研究委員会は、子どもの発達や衛生面から考えて、食事の場と昼寝の場を分ける「食寝分離」が必要で、二歳未満児四・一一平方メートル、二歳以上児二・四三平方メートルを確保すべきだと結論付けた。

 委員長だった定行教授は「現場では、人が重要という認識が強く、環境は軽視されてきた。今回の調査結果は、面積基準をなくすという規制緩和の方向性に対して、一定の歯止めになるのではないか」と指摘する。 (市川真)

◆児童福祉施設の最低基準
◇1人当たりの最低面積

<0、1歳児室> 寝ている状態の子1.65平方メートル、動きだした子3.3平方メートル

<満2歳以上> 1.98平方メートル
by kahajime | 2011-07-11 22:10 | 保育