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企業誘致と大型公共事業と道州制

 日本で「地域の活性化」のために繰り返されてきたのは、企業誘致と大型公共事業である。

 安倍政権の「国土強靱化」のための大型公共事業政策もその延長であるし、また、松下幸之助ら関西の財界が戦後訴え、橋下氏がひきついで訴えている「道州制」も、大型公共事業を「道州」内で積極的に行えるようにする、という点で、同じ発想が根底にある。

 道州制になれば、たとえば確かに関西圏の中で第一の都市である大阪に、圏内の「ヒト、モノ、カネ」を集中させ、大型公共事業も集中する。そこで、一時的に大阪の浮上にはつながる可能性はある。

 しかし、域内の第2の都市以下は大きく衰退する、と指摘されており、神戸や京都の地盤沈下は進む可能性が高い。
 したがって、道州制は少なくとも「全国民の利益」にはならない。

 しかし、「大阪市の利益」にはなる可能性も一時的にはある。

 そう考えると、橋下氏が参議院議員に、大阪市長の立場としての兼職を求めていることについては、「なるほど、全国民の代表としてではなく、大阪市の利益を追求して国会に行こうとしているのか、」と合点がいく。

 しかし、道州制になったとしても、大規模公共事業に依存する限り、結局は大阪も含めて衰退してゆく可能性が高いことは、関西国際空港などの大型公共事業や企業誘致型地域開発政策の失敗が物語っている。

 なぜ、大型公共事業や企業誘致型地域開発政策が失敗するのか。 

 それは、大型公共事業は、実際には地域経済への波及効果が少ない上、地域財政、環境に負担を残すからである。

 関西国際空港も、自治体の名前をネーミングライツしようとまでしている泉佐野市など、自治体の多大な負担や、関西の企業の負担がとても重かった。

 しかし、工事を受注した企業の多くは外資や東京に本社のある大手ゼネコンであった。そのため、負担は地元に残り、利益は東京や海外に流れていく、という構図が出来てしまった。

 また、三重県の四日市など、コンビナート政策では、大企業を誘致した結果、利益は東京に、公害の被害は地元に、つまり、利益は東京にもっていかれ、負担は地元の住民が負う、という構図が出来てしまっている。
 
 これまでのコンビナート政策を見ると、企業誘致は成功しても、その利益は本社(多くは東京)に移転され、地域内での再投資がされなることが少ない。

 特に最近はやりの最先端事業に至っては、地元で他の中小企業などとの連携がないため、域内再投資がほとんど生じてもいない。

 バブル崩壊後の20年の間でも、東京の利益移転が増大しており、地域から東京への利益の移動、という構図がさらに構造化している。

 最近よく、東京の利益を地方に交付金として配分することの問題が指摘されるが、そもその東京の利益は、地方の住民が労働者として生み出した利益が東京に移転してした結果であるとも言える。その、実態を踏まえて議論がされるべきだ。

 さらに、三重県の亀山のように、県を上げて多額の補助金を出してシャープなどを誘致したにも関わらず、極めて短期の間にシャープは撤退し、県の財政的負担だけが残った、ということも記憶に新しい。

 この原因としては様々なことが指摘されるが、短期間でモデルが大幅に変更する最近の家電業界などでは、大型投資が継続的な利益を生み出さなくなってしまっている、という構造的な問題も指摘されている。

安易に企業誘致(特に東京に本社がある企業誘致)を進めたり、大型公共事業を進めたりしても、地域の活性化にはつながらないばかりか、どんどん利益を吸いあげられ、負担ばかりが重くのしかかる、という地域の実態が拡大再生産されてしまう。

 貧困や格差の問題に直面する中で、地方の雇用を何とかしたいと地方在住の誰もが思うだろう。

 しかし、安易な企業誘致や、大型公共事業に活路を求めても、今まで以上に不安定雇用を拡大し、負担ばかり増える。負のスパイラルを拡大するだけだ。

 これは、道州制にしたところで、全く解決しない問題である。

 むしろ大型事業を安易に進め、東京へ移転する地域の利益を増大させ、地域の負担を拡大する、という点で、地方(東京以外)の地盤沈下を拡大する危険性が高い。